松代藩第六代藩主 真田幸弘(菊貫)の文藝

点取俳諧集

点印

点印と印譜

点印とは、宗匠が依頼されて句を採点する際に使用するハンコを言う。これには点数を彫っていないものが多い。宗匠は、どの印が何点と自分で決めて使っていたわけだが、印だけでは、その点数は分からない。そのため、宗匠が批点した結果を作者に戻す際には、点印一式を捺して点数を書き加えたメモを添えて返した。これを点印譜、あるいは点譜という。これは片々たる紙切れであるために、失われてしまうことが多い。
様々な意匠を凝らした点印は、それだけで眺めていても面白い。そのため、点印の印影(点譜)をコレクションしようとする試みもあった。菊貫在世中の文化十年頃の成立と思しき『於之波奈嘉々美【おしはなかがみ】』(加藤定彦編『俳諧點印譜』青裳堂書店、2008年刊)もその一つ。編者は不明だが、大本四帖の点印譜集で、宗匠たちはもちろん、菊貫の点印譜、大名や旗本、武士や町人など、さまざまな俳人の点譜を六百点余集めて貼り交ぜたものである。

菊貫の点印

真田宝物館には、菊貫所用の点印が伝存している。当時、プロの宗匠でなくても、自分の点印を持つことが流行し、アマチュア同士で批点をする場合にも点印を用いていた。由緒ある印は師匠から弟子へ引き継がれることもあったが、多くの場合、俳人たちはそれぞれオリジナルの点印を用いた。菊貫をはじめ当時の俳人たちは、工芸・美術的な要素も合わせて俳諧を楽しんでいたのである。
『於之波奈嘉々美』に捺されている菊貫の点印は、「(鴈図)」・「有真意」・「無車馬喧」・「(水差しに菊図)」・「心遠」・「有佳色」・「半窓紅日揺松景」・「(西洋花瓶に菊図)」・「弌道精英□□」・「(機織り図)」・「白日蒼松塵外想/清風名月酔時歌」「(虎渓三笑図)」の十二顆である。なお、このうち、「(鴈図)」・「(水差しに菊図)」・「有佳色」の三顆を除き、すべて宝物館所蔵の印の中に現存している。